竹取物語に見る易との関係

先日購入した加地伸行先生の『易の世界』のp.16に、竹取物語についての記述がありました。(まだ全然読んでないのがバレますね 笑)

 

 

その部分を書き出すと、

 

 

「かぐや姫に求婚する五人の男性との関係は(姤の卦)から(夬の卦)への変化の物語であるとする。(中略)姤の卦を見ると、最下位にいる一人の女性に対して五人の男性が上に乗っかっている。しかし五人の男性は求婚のための難題解決ができず、つぎつぎと敗れ(易は下から上へと変化してゆく)、ついに、夬の卦のように、一人の女性が最上位となってゆく物語だとし、夬の卦についての『易』の文章と、五人の男性の失敗談との関係を論じる(山本唯一『易占と日本文学』)。」(加地伸行『易の世界』p.16より)

 

 

とあり、なるほどなぁ、面白いなと思っていました。

 

 

その『易占と日本文学』という本(図書館にあった)で書かれているのは、夬の卦の爻を求婚者それぞれの姿と見て解説していくものでした。

 

 

その説は中々面白かったのですが、読みながらふと思いついたのが、一陰五陽の卦の推移も竹取物語に関係しているということ。

 

 

卦を下の図に示します。

 

 

一陰五陽の卦というのは、一人の女性(陰、破線で示される)に五人の男性(陽、実線で示される)が群がるかたちを示す卦です。

 

 

竹取物語ではかぐや姫に五人の求婚者が現れるので、数字も合っているようです。

 → Wikipedia「竹取物語」参照

 

 

① 姤の卦=出会い(五人の求婚者がかぐや姫を見初めたところ)

易経には、

 

姤、女壯。勿用取女。

(姤は女壮んなり。用って女を取る勿れ。)


彖曰、姤、遇也。柔遇剛也。勿用取女、不可與長也。天地相遇、品物咸章也。剛遇中正、天下大行也。姤之時義大矣哉。

(彖に曰く、姤は遇うなり。柔が剛に遇うなり。「勿用取女」とは、與に長くすべかざるからなり。天地相い遇い、品物咸く章かなり。剛が中正に遇うは、天下大いに行るるからなり。姤の時義大いなるかな。)


象曰、天下有風、姤。后以施命誥四方。

(象に曰く、天下に風有るは、姤なり。后を以って命を施き四方に誥ぐべし。)

 

とあります。

 

 

女性の勢いが壮んであり、このような女性と結婚しても長く続かないからやめておいた方が良いという意味です。

 

 

既にこの段階で将来の暗い見通しの兆しが有るということが書かれています。(天地相遇、品物咸章也。剛遇中正、天下大行也。姤之時義大矣哉。)

 

 

② 同人の卦=ライバル多数(この場合は五人の求婚者のこと)

易経には、

 

同人于野、亨。利渉大川、利君子貞。

(人と同じうするに野に于てす。亨る。大川を渉るに利あり、君子の貞に利あり。)


彖曰、同人、柔得位得中、而應乎乾、曰同人。同人于野、亨。利渉大川、乾行也。文明以健、中正而應、君子正也。唯君子為能通天下之志。

(彖に曰く、同人は柔位を得て中を得て、而して乾に應ずるを、同人と曰う。「同人于野、亨。利渉大川」とは、乾の行なり。文明以って健、中正にして應ずは、君子の正なり。唯君子能く天下の志を通ずるを為す。)


象曰、天與火、同人。君子以類族辨物。

(象に曰く、天と火は同人なり。君子以って族を類し辨物す。)

 

とあります。

 

 

「利君子貞」みたいなのが出てきたら、易では大概貞にしていないから凶という意味なのですが、ここでもそれは同じで、求婚者たちがかぐや姫を自分のものにしようというのは私的なことであり、公のためのことではありませんから、凶なのです。

 

 

「利渉大川」というのは、苦労があっても大業を成し遂げるに吉という意味ですが、ここでは上記した通り公のためのことではありませんから、非常に困難なことばかりで何ら得るものはないという意味になります。

 

 

③ 履の卦=色情の問題と、危険なこと(結婚の条件の話)

易経には、

 

履虎尾、不咥人、亨。

(虎の尾を履む、人を咥わず、亨る。)


彖曰、履、柔履剛也。説而應乎乾、是以履虎尾、不咥人、亨。剛中正、履帝位而不疚、光明也。

(彖に曰く、履は柔の剛を履むなり。説びて乾に應ず、是れを以って「履虎尾、不咥人、亨。」とする。剛の中正、帝位を履んで疚しからず、光明なり。)


象曰、上天下澤、履。君子以辨上下、安民志。

(象に曰く、上天下澤は履なり。君子以って上下を辨ち、民の志を安んずる。)

 

とあります。

 

 

履の卦は女子裸体の卦とも言われ、色情の問題が強いとされます。

 

 

また、虎の尾を履むということから、危険があるという意味もあります。

 

 

この卦は和を以て悦ぶを尊しとなす、とでも表現できる卦ですから、かぐや姫が求婚を拒んでいるのに結婚を迫るその姿は、全く和を以て悦ぶというものではありません。

 

 

したがって、虎の尾を履むような危険を提示し、諦めさせようとしている、そんな場面を想像することが出来ます。

 

 

④ 小畜の卦=力が及ばない(求婚者たちが条件を達成出来ず、脱落していく)

易経には、

 

小畜、亨。密雲不雨、自我西郊。

(小畜は亨る。密雲雨ふらず、我西郊よりす。)


彖曰、小畜、柔得位、而上下應之、曰小畜。健而巽、剛中而志行、乃亨。密雲不雨、尚往也。自我西郊、施未行也。

(彖に曰く、小畜は柔位を得て、上下これに應ずるを、小畜と曰う。健にして巽、剛中にして志行わるるは、乃ち亨る。「密雲不雨」とは、尚往なり。「自我西郊」とは、施未だ行かざるなり。)


象曰、風行天上、小畜。君子以懿文德。

(象に曰く、風天上に行くは小畜なり。君子以って文徳を懿す。)

 

とあります。

 

 

女性優位の卦です。

 

 

かぐや姫の望むものを持ってきた求婚者はいませんでしたから、かぐや姫の望んだ通りの結果になったわけです。

 

 

⑤ 大有の卦=大きな力(帝の登場)

易経には、

 

大有、元亨。

(大有は元いに亨る。)


彖曰、大有、柔得尊位、大中而上下應之、曰大有。其德剛健而文明、應乎天而時行、是以元亨。

(彖に曰く、大有は柔が尊位を得て、大中にして上下これに應じるを、大有と曰う。其德剛健にして文明、天に應じて時を行る、是を以って「元亨」とす。)


象曰、火在天上、大有。君子以遏惡揚善、順天休命。

(象に曰く、火が天上に在るは大有なり。君子以って惡を遏け善を揚げ、天の休命に順う。)

 

とあります。

 

 

この卦は盛大な力を示していますから、王者や天子を意味すると考えられます。

 

 

つまり、竹取物語では帝の登場の場面です。

 

 

これまでの求婚者とは格が違うのです。

 

 

しかし、かぐや姫自身は天上の人であり、帝は地上の人ですから、その事実を知ってもかぐや姫を自分のものにしようと考えるのは、天子の徳としてはふさわしくありません。

 

 

よって、元亨とはならないのです。

 

 

⑥ 夬の卦=天が破れる(迎えのとき)

易経には、

 

夬、揚于王庭。孚號、有厲。告自邑、不利即戎、利有攸往。

(夬は王庭に揚ぐ。孚あって號ぶ、厲きこと有り。告ぐること邑よりす、戎につくに利あらず、往くところ有るに利あり。)


彖曰、夬、決也。剛決柔也。健而説、決而和。揚于王庭、柔乘五剛也。孚號有厲、其危乃光也。告自邑、不利即戎、所尚乃窮也。利有攸往、剛長乃終也。

(彖に曰く、夬は決なり。剛が柔を決するなり。健にして説び、決にして和す。「揚于王庭」とは、柔が五剛に乘るなり。「孚號有厲」とは、其の危きは乃ち光いなるなり。「告自邑、不利即戎」とは、尚ぶところ乃ち窮するなり。「利有攸往」とは、剛長じ乃ち終るなり。)


象曰、澤上于天、夬。君子以施祿及下、居德則忌。

(象に曰く、澤天の上にあるは夬なり。君子以って祿を施して下に及ぼす、德に居るは則ち忌む。)

 

とあります。

 

 

天上から迎えが来て、いよいよかぐや姫が帰る場面です。

 

 

戎とは兵のことです。

 

 

天上と地上では戦力も差があり過ぎますから、戦いにすらなりません。

 

 

そうして、かぐや姫は去ってしまうのです。

 

 

 

 

『易占と日本文学』で書かれている易とは違うところから見てみましたが、こういうことも作者は考えていたのかもしれませんね。

 

 

しかし、易をこのように物語の中に見ていくというのも面白いなと僕は感じました。